設定資料:用語集

組織  地理  歴史  技術


組織

亜細亜連邦 (アジアれんぽう)  大亜細亜同盟から発展した連邦国。
 社会主義でも資本主義でもない新たな経済体制を敷き、各国の自治を継続しつつも連邦中央議会と元老院に権力を集中、旧体制の者たちをスケープゴートとしてその絶対的地位を他に認めさせて、混乱の渦にあった各国を統合した。
 連邦憲章は、中央議会と元老院を各国国民全体の代表者による総合的政治機関と定義し、各国の自治を末端レベルではそのままに、しかしながら全体としては一国家としての行動を取り得るよう様々な権力を認めている。とは言っても、文化を異にする多数の国家を「民主的に」統合することは不可能であり、通常、中央議会は各国の内政に大きく干渉することはせず、受動的な処置を取るだけである。が、亜連は成立して以来絶えず非常事態が続いていると言っても過言ではない情勢であり、それを口実に中央議会は各国の政治をコントロールしている。そして、反発はすべて軍の存在によって抑えてきた。
 この軍は各国の軍(自衛隊を含む)を統合した組織であり、統帥権は各行政単位における首長が、それぞれに応じたレベルで有する。つまり三百万を優に超える全軍の最高指導者は、亜細亜連邦大統領にある。が、大統領は中央議会と元老院のそれぞれで実施される選出会議において三分の二以上の賛成をもって指名されるものであり、また、常に存在しなければならないポストではない。結局は、中央議会と元老院がそれぞれの派閥で軍を動かしているのが実情である。
 この絶対的権限を持つ政治機関と軍との密接な関わりによって、形骸化していく行政機関は、各方面軍と事実上同化する傾向がある。これは亜連憲章が文民統制を定めていないこと、そして各首長が既に混乱を抑えるだけの権力基盤を残されていないことが大きい。
 各国の警察組織は軍部によって事実上大きく行動を制限され、軍の警察組織であるMPが幅を利かせているのが現状である。
亜細亜連邦軍  亜細亜連邦各国の軍、準軍隊を統合した組織。
 指揮系統は戦略軍からのものと、各行政機関からのものの二通りがあるが、平時は各行政機関が、戦時には戦略軍が圧倒的な優位にある。軍組織の最上部は戦略軍、特にそのなかの参謀本部(在所:南京)である。
 戦略軍の下で陸海空軍に所轄が分かれているが、これは形式上のことで、より実際的には方面軍という集団にわかれている。組織図上では、陸海空軍が戦力を出し合って編成しているというかたちになっているが、一般的に言って、別の方面軍の陸軍どうしより、同じ方面軍の陸軍と海軍のほうが連絡は密である。
 方面軍は欧州、北部、西部、東部、極東、南部、赤道の七つである。
 各方面軍には統合幕僚本部がおかれ、その場所は以下の通り。
 ・欧州:モスクワ
 ・北部:オムスク
 ・西部:アルマトゥイ
 ・東部:北京
 ・極東:東京
 ・南部:ムンバイ(旧ボンベイ)
 ・赤道:クアラルンプール
 方面軍を構成する「軍団」には統監部がおかれている。
 軍団は通し番号が割り振られているが、通称で呼ばれることも多い。
 たとえば第1軍は通常近衛軍と呼ばれる。一般的に、軍団が旧国家軍をそのまま引き継いでいる場合が多い。
 師団以下の指揮系統は旧体制が残っている場合が多い。言い換えれば、混乱を避けるため各部隊の名称の変更など現地レベルでの指揮体系はできるだけ残しているのである。ただ、旅団以上の部隊に関しては亜連全体で通し番号がふられており、「亜連の○○師団」といえばどこの師団だかわかるようになっている。連隊以下は名称が重なる場合があるが、所属軍団の番号を言えば区別は容易である。なお、実際上の問題から、旧来の師団名も依然使われることがある。
 なお、軍団は、陸・海・空の三軍(宇宙軍が入れば四軍)が複合的な作戦の取れる、実用面では最大の区分となる。
 徴兵制は連邦内で廃止されているが、八月の悪夢で混乱した社会の中で、軍は就職口としては好条件(食にありつける、軍のツテがないと家族が不自由)なので、殆どの地方では(二十世紀末には定数割れを起こしていた歩兵部隊まで)満員である。
 階級は陸軍の場合、二等兵、一等兵、上等兵、伍長、軍曹、曹長、准尉、少尉、中尉、大尉、少佐、中佐、大佐、准将、中将、大将、元帥、(大元帥)と高くなる。海軍、空軍も欧米式をモデルとしている。
 海軍の艦隊は旧指揮系統の名残を残しつつも統合再編が進んでおり、
  欧州方面軍の黒海艦隊、バルト艦隊、北洋艦隊、
  北部方面軍のシベリア艦隊、ベーリング艦隊、
  東部方面軍の第一太平洋艦隊、
  極東方面軍の第二太平洋艦隊、
  南部方面軍のアラビア艦隊、ベンガル艦隊、
  赤道方面軍の南洋艦隊、赤道艦隊
 が主艦隊である。各艦隊の下部組織として、多数の小艦隊が存在する。
アルティメーグ  アメリカの主導的機兵生産メーカー。
 八月の悪夢以後の混乱期に台頭し、スレイプニル機関の発表で一躍アメリカ最大の軍需産業にまで急成長した。これは既存の大企業を多く吸収した結果である。しかし本社株式は公開されておらず、経営陣の陣容や個人情報はほとんど謎に包まれている。
 軍用乗俑機サイクロプスの完成以降、アメリカにおける機兵開発の主導権を握ったが、他の企業の反発がすさまじく、他企業への技術供与を政府から命じられるという、アメリカにあっては異例の事態を呼んだ。これにはGS-450開発難航というアルティメーグ側の事情もあったといわれる。
ウィズトア重工  規模は大きくないながら、新進気鋭の重工メーカー。魏士貴社長の方針で特に八月の悪夢以降に開発された技術の実用化・量産に力を入れ、そこで培った技術力は高い。
 水上用大型マスディフューザシステム「亀甲壱型」の開発実績を軍事委員会に認められ、龍の第三期生産型以降の駆動部やマスディフューザシステムのライセンス生産を手がける。
エスカドローン  啓示軍機兵戦隊。
 十機~二十機ていどの機兵で編成され、在来兵器の足に制限されない自由度の高い行動が取れるのが特長。
 普通は正式名を省略したコードネームで呼ばれ、たとえば第六エスカドローンならば「E6(エーゼクス)」となる。
エデン  亜細亜連邦の体制に反対する一大テロ・ゲリラ組織。とはいうものの、一部の思想家が無数の小規模組織をなんとか取りまとめているのが現状で、その活動には矛盾や無駄が多い。八月の悪夢後に分裂したユートピアの、残存する最大勢力といわれる。
RW重工 (エルヴェーじゅうこう)  機兵など、啓示軍の新型兵器を開発・生産している企業。
 ハンス・ライルスキーの台頭後、短期間でエントゼルトゾルダートとフリューゲイルβの量産体制を構築した。
啓示軍 (オフェンバーレナ)  ドイツ政府を解体して欧州侵略まで行った軍事組織で、国家としての体裁はなしていない。前身となったのはドイツ軍特殊機甲部隊。指導者ハンス・ライルスキーのもとに強固な結束があり、全世界を征服して人類を救済の道に導くと唱えている。数々の変則領域応用技術をもつが、その出所は不明。制圧した国々の軍隊を吸収しており、洗脳を施しているとの噂もあるが、その真偽も不明。
 欧州を完全支配下に置くとともに亜細亜連邦領をも侵しており、アメリカと亜連を始めとする連合国を敵に回している。
 また、中東諸国と不可侵条約を結んでいるが、事実上は「自治権を残した制圧」に近い。
総司令部はベルリンにあるが、「ベルリンの壁」によって外部と遮断されているため、内情を知るものは少ない。
啓示軍基幹部隊 (オフェンバーレナきかんぶたい)  組織を急拡大した啓示軍にあって、特殊機甲部隊時代からハンス・ライルスキーの配下にあった部隊は、基幹部隊と呼ばれる。ベルリンや、各戦線の司令部の防衛が主任務。ほとんどがドイツ人で構成され、ドイツ語で通信を行うなどの特徴がある(各国軍を吸収した都合上、一般的には英語を使う)。ノイエトーターなどの兵站支援も基本的に基幹部隊が行う。
外廓聯 (がいかくれん)  正規軍から外れた戦略軍の直轄遊撃部隊。もとはSMITSの機兵開発チームであり、それもあって実質的には元老院の直轄となっている。白龍隊、青龍隊、赤龍隊の三部隊で構成され、それぞれ龍王や龍を主戦力とする。危険な任務が多い反面、特権的な立場を与えられているので、正規軍にはあまり気に入られていない。
監察院  亜細亜連邦のすべての機関を対象に、運営が報告どおりに行われているかチェックする任を負う組織。監察を拒否、あるいは妨害した場合、監察院側は司法院に処分の申立ができる。
 本部は香港。連邦全体で二十個ていどの支部があり、それぞれの支部に軍や開発部、執政府などの担当部署がある。
 監察に当たる監察士には階級があり、一級~三級監察官が大佐~少佐に、一級~三級監察員が大尉~少尉に対応するようになっている。
軍閥派  亜細亜連邦の秩序は各政体と所轄軍隊が密接に結びつくことで維持されると考える一派。
 民主性や文民統制を主張する議会派や、元老院の特権を容認して中央集権を図る元老院派とは対立し、十年近く三つ巴の様相を呈していたが、応龍事件を境に、指導者を失った軍閥派は急速に勢力を失った。
元老院  亜細亜連邦樹立に大きく貢献した者たちで構成され、中央議会に対して軍事・民事を問わず口出しできる。亜細亜連邦の枠組みを作ったのが元老院であるため、その権力は特権的なものが多い。議員は元老院議員としては恩給を受けていないが、ほとんどがもともと資産のある身であり、日常は表の顔で生活している。
 貴族院的な性格も持つが、議員に世襲は認められない。改選もないので、基本的には誰かが死亡しない限り議員数に変化はない。よって設立より議員数はほとんど変化しておらず、少数の死亡と新規加入があるのみ。新規加入に関しては、元老院議長の一存で決定できるが、二〇〇五年から二〇二三年まで勤めた二代目議長ニコライ・ペトロヴィチ・ノヴィコフは常に合議を重んじ、強硬な決定を下した事例はない。
黒龍隊  近衛軍第二七独立連隊に新設された第四機兵大隊の公式通称。二〇二二年十二月三日、日本の猿之門基地にて編成され、同基地を所属基地とする。隊長は江藤博照少佐、副隊長は北嶋三朋大尉。
 「遊撃で手一杯の外廓聯に代わり重要地域を防衛する新たな機兵部隊の先駆」と銘打たれた黒龍隊だが、裏では、元老院の手駒であった外廓聯に対抗して右院の肝煎りで編成されたという側面がある。
シダルト技研  啓示軍に母国を制圧されて以来、ゾルダートシリーズの生産を手がけはじめた企業。
司法院  亜細亜連邦の連邦機関 (及びその職員)や連邦構成国の三権機関を裁くための機関。しかし実際には、連邦職員の不正を裁く以上のことはほとんどできない。
人類宇宙開発センター  二〇〇五年五月、巨大スペースプレーン構想実現のために設立された国際機関。
 GSPシリーズを開発し、クリスマス島に宇宙基地を建設した。
秦和精機  亜細亜連邦の大手乗俑機メーカのひとつ。
 玄人好みの製品を手がけることが多く、生半可な技術では模造・改造できないと言われる。
 販売後の製品管理も徹底しており、実際、秦和精機製乗俑機を用いたテロは稀である。
SMITS (スミッツ)  亜細亜連邦特別軍事技術研究局。二〇〇四年に元老院が設立したが、母体となった組織が以前からあったようである。龍王や龍の開発において主導的役割を担い、スレイプニル機関の実用化でも実績をあげている。ただあくまで研究局なので、生産設備の規模は小さい。
北熊 (セヴェルメドヴェーチ)  オムスクを中心とする、旧CISの非モスクワ派の最大コミュニティ。
 狭義では北部方面軍統合幕僚本部を指して使われることもあるが、実際のところ北熊はただの軍閥ではなく、 政治家、企業、インテリなども集まった地縁的一大ネットワークである。
大亜細亜同盟  Large Association of Asia 略称LAA
 八月の悪夢による混乱を乗り切るためにアジア諸国やロシア連邦が結成した巨大同盟。二年半の後に亜細亜連邦となる。
タウンゼントエンタープライズ  アメリカの財閥企業。
 軽工業から電子機器、車、船、さらには各種サービス業など、幅広く経営している。子会社は株式を公開しているが、親会社たるタウンゼントエンタープライズだけは氏族的な経営を続けている。
地球啓蒙教会  ニューヨークに本部を置く新興宗教のひとつ。
 八月の悪夢を技術先進国の行った極秘科学実験とみなし、アメリカやEU諸国で国策に従っている科学者を敵視する。また、科学者たちが八月の悪夢による混乱や変則領域を操ることによって世界を手中に収めようとしていると大衆に訴え、科学者の社会的権利を剥奪するべくデモを頻繁に行っている。
 八月の悪夢後に成立した宗教団体としては最大の規模を持ち、信者ではなくてもその社会運動に協力するものは多い。
 非賛同者からは、ボン事件の引き金を引いたことで疎まれている。
中央議会  亜細亜連邦の立法機関。大統領(大統領は中央議会と元老院の合意による場合のみ任命され、最高機関である大統領府が置かれる)のいない場合は中央議会が代行執政府を置くことになっているため、事実上、中央議会は行政機関を下部組織にもつことになる。
 右院と左院があり、右院は軍事委員会を設置し、左院はフェイジアインダストリーズの運営権をもつ。
 中央議会で扱われる議案は重要度によって三段階のランク付けがされている。重要度の低いものは右院、あるいは左院の片方のみで審議を受け、出席過半数の賛成で可決される。中程度の重要度の場合、いずれかの院の定足数を超える賛成か、両院で出席過半数の賛成を得ることで可決。重要度が高いものについては、両院で定足数を超える賛成を可決に必要とする。
 議員は、亜細亜連邦を構成する各国が人口をベースとして定められた議員数を選出することで構成される。例外的に、民族代表や元老院推薦といった枠もある。議員の任期は四年で、毎年両院の四分の一ずつが改選される。右院は二月、左院は八月に選挙が行われる。
ハイヴィレッジコンツェルン  大亜細亜同盟後の体制変化で法律が大きく変わった日本で、新たに形成された新興財閥。旧来の巨大企業を吸収し、今や亜連の産業界で三割のシェアをもつ。医療技術や宇宙開発部門が特に有力。主要な株主には元老院議員も多いと噂される。
フェイジアインダストリーズ  亜細亜連邦の公的機関 (軍を含む)で用いる工業製品を供給する半民半官の複合工業会社。中央議会左院議員が運営の主導を行っている。
 亜連における機兵の生産ではフェイジアインダストリーズとハイヴィレッジコンツェルンが二頭となっている。
マハデバン商会  インドに本社を置く多角経営企業。八月の悪夢直後の混乱期に民需品の取引仲介で成功を収め、順調に経営を拡大し、南部方面軍轄区でも指折りの大企業に成長した。
 会長および社長の意向から零細・中堅企業への投資を重視していることでも知られる。
マポス軍事工業  旧ソヴィエト連邦の数ある設計局の流れを汲む、ロシア最大級の企業。
 宇宙開発は規模を大きく縮小しているが、戦車や戦闘機などの正面装備の受注ではハイヴィレッジコンツェルンやフェイジアインダストリーズに比肩する量を誇る。
ユートピア  八月の悪夢に乗じて世界各地でクーデターを起こしたとされる世界的なテロ組織。その実態は、ハンスの祖父ウォレノフ・ライルスキーが世界中の思想家たちを結んで作ったネットワーク。ウォレノフ・ライルスキーの没後分裂し、派閥ごとに政権打倒や独立運動、護憲運動などを展開。
 八月の悪夢直後に分裂し、現在その痕跡として残っているのは反亜細亜連邦の過激派組織エデンのみと言われる。
RAT (ラット)  元老院議員およびSMITS研究員の身辺警護や、元老院の指定した八月の悪夢時のクレーターなどを封鎖する仕事をしている私設武装組織。表向きは既存の警備会社なみの規模として知られているが、実際にはその十倍以上の組織をもつとも言われる。各方面において元老院の影の支配力を行使するための実力部隊であると噂され、そうなると無論、軍内部にも相当数の隠れたRAT特務員が存在すると思われる。
ワタナベ派  狭義には、物理学者サノン・ワタナベ博士の学説を支持する学術研究者の一派。広義には、ワタナベ博士の失踪を何者かの陰謀として盛んにデモや集会を催す市民団体をも含む。公安関係者にとっては、ワタナベ派はその市民団体のことである。


地理

GT72鉱山基地  タシケントから遠くないコア原石の鉱山基地。一時は活発に採掘されていたが、今では廃坑となっている。
クリスマス島宇宙基地  人類宇宙開発センターの主要基地。かつて日本が宇宙往還機の滑走路用に取得していた土地に、GSP計画のためのリニアカタパルトを建設したことで、拓かれた基地である。世界最大級のスレイプニルコンバータ&サーキュレータを有する。
グレートアイランド  アメリカが二〇〇二年七月より建設を開始した超大型の海洋浮遊拠点。米軍の力の象徴を作る意味もあったが、日韓の基地を引き払わねばならなくなったことも建設の大きな理由となっている。
 二〇一一年八月に大きな崩落火災事故があり、財政難もあって建設は凍結された。
作為終末論  八月の悪夢を物理学者や軍などが引き起こしたものだとする多数のオカルト論の総称。一九九九年八月下旬にはすでに成立していたが、二〇〇〇年十月に全世界で科学者らの研究発表が始まった影響で急速に勢力を伸ばし、特にキリスト教文化圏の都市部では科学者の抹殺を叫ぶなど過激な傾向にあった。
 作為終末論者の最大勢力はニューヨークに本部のある地球啓蒙教会である。
猿之門基地  関東の猿之門 (架空)にある近衛軍の基地。平坦な猿之門においては珍しい台地を占有し、長い白壁と金網で景観を損ねている。
 昔はありふれた駐屯地だったのだが、亜細亜連邦軍設立後に一挙に拡充された。二〇二二年一二月に第二七独立連隊が改編されてのち、同連隊の第四機兵大隊、通称黒龍隊の居城となる。この基地が選ばれたのは、もともと猿之門基地が00年代後半からの乗俑機開発ブームで作られた実験機のテスト地でもあったからであり、黒龍隊は当時つくられた大型格納庫ふたつを機兵用に使っている。
新青海基地  中国内陸の新鋭拠点。大都市近郊の主要拠点と違い、この不毛の地の巨大基地は戦略軍の直轄である。
 もともとは、八月の悪夢後に発生した謎の緑地化現象を研究するために小規模な拠点が設置されたのがはじまりで、それが実験農業プラントとなり、一方でコアの採掘及びテストの基地としても使われるようになって、やがて軍事技術のテスト基地として巨大化した。超大型輸送機でも着陸可能な巨大空港、レーダーサイト、ミサイル基地、兵器製造工廠、発電所などが揃っており、可能な限り他への依存を排除した独立拠点となっている。製造工廠には次世代超大型宇宙往還機の建造台もあり、その完成に先んじて施設設置型スレイプニルサーキュレータが稼動開始。
 もともと不毛の地だったので、交通などの便は悪い。軍事機密に関わる施設も多いので、周囲への民間の進出は規制されており、それがますます新青海基地を陸の孤島たらしめている。外との行き来は空港を使う以外まともな方法がない。
 外廓聯の基地としても知られるが、外廓聯の実戦部隊が実際に新青海にいることは少ない。また、龍王などの特異な機体を扱う関係で、SMITSやRATも居を構えている。
暖炉の谷  八月の悪夢の際にキルギスの国境付近にできた巨大な峡谷。変則現象によって谷間から絶えず炎を噴出している。全世界でも指折りの定常的変則領域。
灯教 (ともしびきょう)  暖炉の谷を神が与えた恩恵の地として崇める新興宗教。天地創造の神々より高位の神がこの宇宙には存在し、その神が顕現したときの余波が八月の悪夢となったというのが教団の語るところである。無宗教だった人間のみならず既存のさまざまな宗教からも信者を得ており、とうぜん細かな考え方の違いはあるが、あくまでコミュニティ維持のための教団であり、明確な縦の社会構造はない。彼らを結び付けているのは暖炉の谷への畏敬の念であり、暖炉の谷の恩恵に感謝しつつ、神の意について思いをめぐらすのが彼らの唯一にして最大の共通点である。
聖域 (ハイリヒトゥム)  啓示軍の最高機密の地であり、数々の技術の基盤となっている場所。その所在や規模、縁起などの情報は限りなく少ない。存在自体は漠然と外部にも知れており、それが月ではないかとの憶測から、亜連やアメリカは宇宙用の機兵やオービタの実用化を性急に進めさせているとの噂もある。
フェイム  二〇一〇年以降、亜細亜連邦で使われている統一通貨。ただし、当初は使用は電子商取引や国家財政管理などに限定されており、まだ市民が巷で使うようにはなっていない。
 信用通貨であり、各構成国家が金本位などを実施する場合、各政府の元で別途に交換保証書を発行することになっている。
 おおよそ1円=1フェイムであり、それ以下の単位は「ミリフェイム」のようにSI接頭辞を使って表現する。また、慣例的に「キロフェイム」「メガフェイム」などの呼称もなされるが、正式な書式の公文書では用いない。
ベルリンの壁  啓示軍占領下のベルリンを覆う不可思議な濃霧。変則領域と推測されている。内外を遮断しており、ベルリンを守るバリアとして機能しているようである。
 前世紀にベルリンを東西に別った壁に由来し、啓示軍の内外ともにこれを「ベルリンの壁」、あるいは単に「壁」と呼ぶ。


歴史

欧州事変  啓示軍戦争の初期の呼称。啓示軍が欧州諸国侵攻を開始してからは、啓示軍戦争、第三次世界大戦に名を変えた。
応龍事件  二〇二一年十一月、亜細亜連邦領内で所属不明の機兵が戦闘行為を行ったことから、星志敦大将が極秘で機兵を開発していたことが発覚した事件。
 星志敦大将は同年四月に国籍のない技術者集団に独自の機兵「影龍」の開発を指示し、多額の資金を公金からも流用していた。十一月の時点で試作機が稼動可能だったことは驚異の事実であり、もとから開発中だったものに星大将が援助した形であった可能性が高い。星大将はSMITSに対抗して同技術者集団に「応龍隊」と名づけており、事件の名はこれによる。なお、試作機「影龍」は開発施設の守備隊を壊滅させ、応龍隊全員とともに姿を消した。
 星志敦はこの事件によって左遷され、以後、戦略軍は金星也の独壇場となった。また、軍閥派もトップたる星志敦が実権を失ったことで、急速に衰退。
甘粛事件  二〇〇一年二月、八月の悪夢以降危険区域として立ち入り禁止になっていた甘粛省のクレーター群に、銃で武装した青年研究者や学生たち八十五人が強行侵入。排斥を試みた人民解放軍と銃撃戦になった。さらに青年らのなかにエデンの名を騙った者がいたため軍は攻撃を激化。十二時間で青年らの半数が死傷し、残りも逮捕された。だが事はそれだけで収まらず、実際にエデンがこの事件を隠れ蓑にして人民解放軍の施設を爆破。逮捕された青年らは関連を疑われ投獄された。
 この事件以後、甘粛省の数カ所で住民の強制退去を含む立ち入り規制強化が実行され、これに抗議するデモ活動もエデンを支援するものとして厳しく弾圧された。
若年士官増員計画  亜細亜連邦軍が二〇一六年より実行に移した計画で、最新技術の知識や扱いに長けた若手の士官・下士官を増員することを企図したもの。
 八月の悪夢以後の技術革新は目覚ましいものがあり、亜細亜連邦軍では、最新のテクノロジーを使った機器に年配の指揮官が対応できないという事態があちこちで問題化していた。また最新技術にかかわりのない場面でも、経験豊富な人材が連邦樹立前後の混乱で多く失われたことや、あるいは逆に亜連以前の体制に慣れきってしまった指揮官が組織の硬直化を促す問題などが浮上しており、若手の育成を求める声が上がっていた。そこで、士官学校に行っていない非エリートの若手から各種の新技術に長けた者を選出し、士官学校に準じた教育を受けさせようという案が二〇一〇年頃から提案されていたのである。
 能力主義が元老院の後ろ盾のもとに軍全体に浸透し始めていた二〇一四年に計画の認可が下り、金星也らによる計画書に基づいて二〇一六年から実施された。
 教育対象として選出された者は、一年間の教育を受ける。カリキュラムは、士官学校で教えるもののうち、実践面において価値のあるものを選りすぐって構成されている。
 第一陣の評価は、「士官学校を好成績で卒業したものには及ばないが、ぎりぎりの成績で卒業したものよりはよほど使える人材」であり、良好な結果といえる。
新世紀農業基本計画  大亜細亜同盟が二〇〇一年七月に打ち出した農業計画で、持続可能な耕地開発とそれにともなう治水事業が最重要点。計画は亜連に引き継がれ、穀物生産強化計画の名で分離された主要目標は、二〇〇五年九月の第二回国勢調査で良好な結果を示している。
八月の悪夢  一九九九年八月に謎の隕石群が地球に落下したことに始まる、一連の天変地異を総括した呼び方。
 謎の隕石は地表付近でエネルギー化現象を起こして爆発し、高圧電流の嵐を巻き起こしたとともに、地殻運動や気象に著しい変動を与えた。さらに史上初バロックが発生し、コアの確認もこの直後のことである。
 変則領域の出現と八月の悪夢と、どちらが原因でどちらが結果であるのかは議論が絶えない。
変則領域  「八月の悪夢」以後に観測され始めた、通常の科学法則が通用しない空間のことを指す。広義のバルムンクフィールドと同義。
 変則領域は発生・消滅ともにきわめてランダムであり、現れる場所や時間、領域の広さ、干渉を与える科学法則などにも、これといった一貫性は認められない。微小空間にフェムト秒単位で現れるものもあれば、暖炉の谷のように半径十数キロにわたって十年以上存在しつづけるものもある。
 なお、変則領域特有の現象を、変則現象、バルムンク現象などと呼ぶ。
 この概念は発表当初、オカルト科学と同じ扱いを受けた。
北海疑惑  二〇一九年五月に起きた北海沿岸の大津波が巨大隕石の落着によるものであり、各国政府がそれを隠蔽しているのではないかという説。どこの政権も事実関係を否定。津波は天変地異だとしている。
ボン事件  二〇〇五年四月、「八月の悪夢」の生んだ特異な物理現象やそれによって生み出された新技術について、財閥系の企業ばかりが情報を握っている事態を憂慮した学者らが、ドイツのボンで国際科学シンポジウムを開催。科学者らは知りうる限りの情報を実業家や中堅企業に教え、民間への情報開示の推進と利用法の模索を検討した。だがこれを作為終末論者に煽動された市民が暴徒化して襲撃し、これに一部の警察も荷担したため、多くの良識ある科学者が死傷。また、開催されていた建物も炎上し、貴重なサンプル類も多く失われる結果となった。
 ドイツ政府は襲撃を煽動した作為終末論者が母国であるアメリカに逃亡したのを突き止め、アメリカに引き渡しを求めたが、アメリカはドイツが情報の盗み取りを狙っているとしてこれを拒否。以後、米独の関係は悪化する。
 俗には、ボンの惨劇などとも呼ばれる。
モスクワ攻防戦  二〇二二年七月、亜細亜連邦の欧州方面軍轄区最大の都市であるモスクワに啓示軍が侵攻し、欧州方面軍屈指の実力を誇る守備軍と交戦。同市周辺で一週間にわたって続いた戦闘を、啓示軍戦争終結後の公式な呼称でモスクワ攻防戦と呼ぶ。
 以後、啓示軍はモスクワを支配下に置き、中枢を失った欧州方面軍は敗走することになった。
 この戦いではノイエトーターがモスクワ包囲の土台作りに大きく寄与したことから、亜細亜連邦軍がノイエトーターの脅威を知った戦闘といわれる。また、戦闘終結間際に影龍二機が市郊外に現れノイエトーターと交戦したことが、脱出中だった亜細亜連邦兵によって確認されている。
横須賀事変  一九九九年十月二十日、自衛隊が一部将校の指揮で横須賀基地を占拠。市民が占拠部隊に加担、日本の世論も支持したため、政府は横須賀における自衛隊の武力行使を正式な作戦行動だとし、日米安全保障条約の無効化を求めて交渉に乗り出す結果となった。
 日米同盟破棄、ひいては亜細亜連邦樹立につながるエピソードとして有名。


技術

MMアクチュエータ  マイクロサイズの機械を構成子として構築される擬似人工筋肉。重機、ひいては乗俑機用に開発されたものだが、機兵用のアクチュエータとして着目され、機兵開発の枢要な技術的要素のひとつとなる。瞬発力や柔軟性に優れる一方で、保持力などに弱みを持ち、MMアクチュエータには超小型サーボ系などが必要に応じて組み込まれている。
 構成子であるマイクロマシンは、単位時間当たりに強い負荷を受けたり、あるいは長時間の稼動を経ることで、徐々に壊れていく。これを「疲労」といい、疲労のたまったMMアクチュエータは交換が必要になる。このため、機兵は十全なバックアップ体制がなければ運用できないのである。
エクスペクトプロセッサ (EPU)  亜細亜連邦の企業群が共同開発した画期的な演算処理装置。並列計算や方程式の解の割り出しにおいて驚異的な処理速度をもつ。一説には「勘」を働かせることもできるというが、じゅうぶんな実証はされていない。
 龍や二三式戦場管制車に搭載されており、亜細亜連邦が機兵を兵器システムとして成り立たせる上で、重要な役割を担っている。
オプティカルバルムンクスキャン (OBS)  光学バルムンク走査(語尾がスキャナの場合はそのための装置を指す)。コアを使用して特殊なレーザーを発し、変則領域分布の情報を得る。相対バルムンク反応センサーと組み合わせることで、より正確な変則領域分布がわかる。
 通常の視覚的情報と有効に組み合わせるため、機兵では主に、目にあたる複合カメラユニットに併載されている。亜連製機兵が頭部にEPUを搭載しているのは、OBSのリアルタイム解析を行うためにデータ転送距離を最短にした結果でもある。
機兵  在来の乗俑機を超える大きさと機能をもつ人型兵器。変則領域内での戦闘や月面開発といった高度な任務をこなすことができる。在来の乗俑機とは、BFGやマスディフューザ、コクピットの装甲防護の有無などで峻別される。
 すべての在来兵器をバロッグ対応にするよりも、すべての在来兵器の代わりをできるバロッグ対応兵器を用意したほうが合理的だという考えは00年代からあったが、あくまで諸説のひとつに過ぎず、乗俑機の大型化にはどこも消極的だった。しかしノイエトーターの出現によってその有用性が評価され、一転して各国で急ピッチの開発が進むことになった。とはいえ、短い開発期間のうちに実戦投入されたため、地球製の機兵はみな完成度が低い。
 余談だが、乗俑機丙の略称「機丙」と「Maschinensoldat」の訳をかけて、「機兵」の訳語ができた。
コア  コマンダー・オーア(命令者鉱石)の略称と言われる。一定の電位や結晶の配列などの条件が揃ったときに、変則領域を発生させる鉱石群の総称である。八月の悪夢以前はただの鉱石であった。
 生み出す効果は多種多様であるが、一定の能力をもつものを集めて軍事面で利用されている。マスディフューザやバルムンクフィールドジェネレータが良い例である。
乗俑機  八月の悪夢後の復興のために開発された人型作業機。
 亜連では、人が着て扱うパワードスーツタイプを甲種、それより大型で車輛や航空機のように操縦するタイプを乙種と分類する。さらに軍事作戦用に機能とサイズを拡張したものを丙種、すなわち乗俑機丙の名で開発しており、これが亜細亜連邦が龍を短期間で戦力化できた要因のひとつである。
 二〇二二年末時点、亜細亜連邦では民間に相当数が普及しており、エデンなどの反政府ゲリラが戦力として持ち出すこともしばしば。機兵以外の乗俑機には武装が無いのが基本だが、ゲリラによって改造されていることもある。
スレイプニル機関  アメリカの新興企業アルティメーグ社が初の実用化を果たした。蓄力機関とほぼ同義。質量エネルギー保存則を自由に操作できる機関とも言われるが、詳細は不明。ただわかっているのは、製法と、質量を殆ど増やさずにエネルギーを蓄積でき、それを短時間のうちに効率よく燃焼可能ということである。
 あくまで補助システムであり、既存のエンジンシステムと併用される。
 なおスレイプニルの名の由来は、北欧神話の主神オーディンの愛馬で、足が六本あり、空を駈ける。
スレイプニルサーキュレータ エネルギーを開放した後のスレイプニル燃料に再びエネルギーを充填する機構。百パーセント同じものに再生できるわけではなく、再充填できるエネルギーは元の5~20パーセントの割合(装置によって異なる)。
 高速低率再利用(HSLR)型と低速高率再利用(LSHR)型があり、装置の規模によって両者とも再充填率は高くなる。トロイ・パペ・ゾルダート以降の各勢力の機兵にはHSLR型の小さなモデル(再充填率5パーセントほど)が搭載されているものも少なくない。LSHR型は補給基地などに大きなものを固定式で建設することが多く、低速という欠点を補うために数個が併設されるのが常である。この方式で最大規模のものは、クリスマス島宇宙基地にある。
絶対バルムンク反応 (ABR)  相対バルムンク反応を、一般的に採掘されるコアの標準試験片で測ったもの。実際には試験片の性質に差異があり、場合によっては致命的な誤差を生ずる。
相対バルムンク反応 (RBR)  空間的に近い場所の変則領域どうしは互いに干渉し、性質や分布に微細な変化を示す。これを相対バルムンク反応といい、ワタナベ理論によれば反応の程度は変則領域の濃度と規模、距離に比例するとされる。
ダイダロスシステム  マスディフューザから派生したもので、広義での航空機に搭載して揚力制御に用いる。
 目に見えない翼を構成し、機体の自重を任意に分散・偏重させることで、揚力の発生に影響を与え、それを感知するフィードバック系をも備えたシステムである。
 アルティメーグ社が独自に実験段階までこぎつけた段階で、米軍より予算が下り、後の開発は米軍管轄下で行われた。この前後で数社の共同開発になり、アルティメーグ社の初期開発スタッフは姿を消している。その後しばらくの開発は順調だったのだが、一部スタッフの行方不明事件によって開発は著しいペースダウンを向かえた。その影響でGS-400系の量産が遅れた事情がある。
蓄力機関  スレイプニル機関とほぼ同じ意味で使われる言葉だが、SMITSやフェイジアインダストリーズではこちらを正式呼称としている。しかし、現場ではスレイプニル機関と呼ばれることが少なくない。
電離砲  原理からして変則領域を使った攻撃兵器。バルムンク砲の一種。
 目標物に対して一瞬だけビーム状のプラズマを発生させ、電子部品を破壊するもので、装甲に対してはダメージを与えない。射程は短く接近戦用の兵装とならざるをえないが、装甲防御を無視して敵機を稼動不全に陥らせることができるので、特殊作戦などでは非常に有効である。破片の飛散や爆発の延焼による周辺への被害の可能性が低いという特質もあり、友軍領地内での戦闘でも有効。
 生体に対する影響も皆無ではないが、電離砲を最初に量産・配備した米軍は「明らかな証拠は存在しない」としている。
 米軍では電離砲をプラズマ砲と呼称する。
ニーベルンギウム  ノイエトーターなど、ごく限られた兵器にのみ使われている謎の材質。新元素ではない。
 主に構造材や装甲材として用いられるが、その特性が多岐にわたることから、ある種の材質群の総称と思われる。
 一般的にチタン系合金を上回る剛性と耐食性をもち、密度は不明。
 組織の自己修復機能も備え、変形や破断は数日のうちに修復される。
 亜連やアメリカに製造技術は無いが、戦場で確認されている所属不明の機兵にも同様の素材が一部使用されているようである。
熱粒子砲  原理からして変則領域を使ったビーム兵器。バルムンク砲の一種。
 原理は大まかには以下の通り。
 加熱区画である種の変則領域を発生させ、砲弾となる微粒子を高い熱運動状態に引き上げる(この状態の微粒子を熱粒子と呼ぶ)。この際に質量の一部が失われる。収束・加速区画で熱粒子の運動を一定方向にそろえ、さらに質量を運動エネルギーに変換して加速し、撃ち出す。熱粒子砲の弾道は砲が作り出した変則領域のレールに沿ったものになるので、熱粒子砲の命中精度はその擬似レールの長さに大きく依存する。擬似レールを曲線状に発生できる場合は、擬似レールを離れるまでの間はビームの誘導が可能である。
 このビームはレーザーではないので、弾の速度は光速ではない。初速はおおむねマッハ10を超えるが、大気圏内では大気によって速度・熱ともに減衰する。大気中での有効射程は数キロ以内である。無論、大気中の微粒子が多ければそこでエネルギーを大きく失うし、水中ではひたすら水を沸騰させるだけである。また、周囲に発生している変則領域の性質によっては著しく威力が削られたり、作動自体が不安定になったりする。
 一般的には機構上の問題で発射前に熱や光が漏れてしまうため、じゅうぶんなセンサーと瞬発的運動能力を持った兵器には回避されることが多い。
バルムンクフィールド  広義には変則領域と同意。一般的には、コアを使って任意に発生させた変則領域のことを指す。機兵運用の現場では特に、特定波長の電磁波の吸収性質を持つものを言う。
バルムンクフィールドジェネレータ (BFG)  電磁波吸収、および外界の変則領域から機体を隔絶するために、バルムンクフィールドを発生させる装置のこと。
 普通、フィールドは球状であり、装置の位置がその中心になる。
 なお、マスディフューザやバルムンク砲などは便宜上BFGに含めない。
バルムンク砲  変則領域を利用した砲の総称。大別して電離砲(プラズマ砲)、熱粒子砲に分けられる。
 今のところ実戦配備しているのは啓示軍のみ。米アルティメーグ社は実用型を完成させたが、量産化で行き詰っている。
バロッグ  バルムンクフォッグの略といわれる。バルムンク現象を呈し、電波妨害をもたらす霧状の発光現象群の総称である。
 八月の悪夢以後、主にユーラシア大陸で見られるが、八月の悪夢そのときと同様のバロッグは観測されていない。
 バルムンクフィールドによりその影響を排除できる。
マスディフューザ  比較的ありふれたコアを使った、地球製の重力作用分散システム。設置面周辺に作用を分散させることで、接地圧を低くできる。
 地球製の機兵が十数メートルという大きさで二足歩行が可能なのはこのシステムあってのことである。高価であると同時に軍事機密に含まれるため、機兵以外にはあまり搭載されていない。
マスディレクタ  変則領域を発生させ万有引力の作用方向を偏向するシステム。スラスターなしでの重力下飛行が可能となる。
 啓示軍の少数の機体や、一部の所属不明機が搭載している。地球の在来技術では製造不能と思われる。
ワタナベ理論  変則領域研究家の草分けであるサウエル・ワタナベが提唱した理論で、変則領域のなかに見出された一般則や、観測評価の手法などをまとめてある。ワタナベ博士が行方不明となった後も、世界の科学者によって補強され、バイブルとなっている。